ます下士族の権力を逞《たくまし》うすることあらば、或は人物を黜陟《ちゅっちょく》し或は禄制《ろくせい》を変革し、なお甚《はなはだ》しきは所謂《いわゆる》要路の因循吏《いんじゅんり》を殺して、当時流行の青面書生《せいめんしょせい》が家老参事の地位を占めて得々たるがごとき奇談をも出現すべきはずなるに、中津藩に限りてこの変を見ざりしは、蓋《けだ》し、また謂《いわ》れなきに非ず。下等士族の輩《はい》が、数年以来教育に心を用《もちう》るといえども、その教育は悉皆《しっかい》上等士族の風を真似《まね》たるものなれば、もとよりその範囲《はんい》を脱《だっ》すること能《あた》わず。剣術の巧拙《こうせつ》を争わん歟《か》、上士の内に剣客|甚《はなは》だ多くして毫《ごう》も下士の侮《あなどり》を取らず。漢学の深浅《しんせん》を論ぜん歟《か》、下士の勤学《きんがく》は日《ひ》浅《あさ》くして、もとより上士の文雅に及ぶべからず。
また下士の内に少しく和学を研究し水戸《みと》の学流を悦《よろこ》ぶ者あれども、田舎《いなか》の和学、田舎の水戸流にして、日本活世界の有様を知らず。すべて中津の士族は他国に出《いず》
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