を顕《あら》わし、下士の力は漸《ようや》く進歩の路に在り。一方に釁《きん》の乗《じょう》ずべきものあれば、他の一方においてこれを黙《もく》せざるもまた自然の勢《いきおい》、これを如何《いかん》ともすべからず。この時に下士の壮年にして非役《ひやく》なる者(全く非役には非ざれども、藩政の要路に関《かかわ》らざる者なり)数十名、ひそかに相議《あいぎ》して、当時執権の家老を害せんとの事を企《くわだ》てたることあり。中津藩においては古来|未曾有《みぞう》の大事件、もしこの事をして三十年の前にあらしめなば、即日にその党与を捕縛《ほばく》して遺類《いるい》なきは疑を容《い》れざるところなれども、如何《いかん》せん、この時の事勢においてこれを抑制《よくせい》すること能《あた》わず、ついに姑息《こそく》の策《さく》に出《い》で、その執政を黜《しりぞ》けて一時の人心を慰《なぐさ》めたり。二百五十余年、一定不変と名《なづ》けたる権力に平均を失い、その事実に顕《あら》われたるものは、この度の事件をもって始とす。(事は文久三|癸亥《きがい》の年に在り)
この事情に従《したがっ》て維新《いしん》の際に至り、ます
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