み。
下士の輩《はい》は漸《ようや》く産を立てて衣食の患《うれい》を免《まぬ》かるる者多し。すでに衣食を得て寸暇《すんか》あれば、上士の教育を羨《うらや》まざるを得ず。ここにおいてか、剣術の道場を開《ひらい》て少年を教《おしう》る者あり(旧来、徒士以下の者は、居合《いあ》い、柔術《じゅうじゅつ》、足軽《あしがる》は、弓、鉄砲、棒の芸を勉《つとむ》るのみにて、槍術《そうじゅつ》、剣術を学ぶ者、甚《はなは》だ稀《まれ》なりき)。子弟を学塾に入れ或は他国に遊学せしむる者ありて、文武の風儀《ふうぎ》にわかに面目《めんもく》を改め、また先きの算筆のみに安《やす》んぜざる者多し。ただしその品行の厳《げん》と風致《ふうち》の正雅《せいが》とに至《いたり》ては、未《いま》だ昔日《せきじつ》の上士に及ばざるもの尠《すく》なからずといえども、概してこれを見れば品行の上進といわざるを得ず。
これに反して上士は古《いにしえ》より藩中無敵の好地位を占《しむ》るが為に、漸次《ぜんじ》に惰弱《だじゃく》に陥《おちい》るは必然の勢《いきおい》、二、三十年以来、酒を飲み宴を開くの風を生じ(元来|飲酒《いんしゅ》会宴
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