》しき有様なりしかども、天下一般、分《ぶん》を守るの教《おしえ》を重んじ、事々物々|秩序《ちつじょ》を存して動かすべからざるの時勢《じせい》なれば、ただその時勢に制せられて平生《へいぜい》の疑念《ぎねん》憤怒《ふんど》を外形に発すること能《あた》わず、或は忘るるがごとくにしてこれを発することを知らざりしのみ。
中津の藩政も他藩のごとく専《もっぱ》ら分《ぶん》を守らしむるの趣意《しゅい》にして、圧制《あっせい》を旨とし、その精密なることほとんど至らざるところなし。而《しこう》してその政権はもとより上士に帰《き》することなれば、上士と下士と対するときは、藩法、常に上士に便にして下士に不便ならざるを得ずといえども、金穀《きんこく》会計のことに至《いたり》ては上士の短所なるを以て、名は役頭《やくがしら》または奉行《ぶぎょう》などと称すれども、下役《したやく》なる下士《かし》のために籠絡《ろうらく》せらるる者多し。故に上士の常に心を関するところは、尊卑《そんぴ》階級のことに在り。この一事においては、往々《おうおう》事情に適せずして有害《ゆうがい》無益《むえき》なるものあり。誓《たと》えば藩政の
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