か》、筆にも記《しる》しがたき語風の異同は枚挙《まいきょ》に遑《いとま》あらず。故に隔壁《かくへき》にても人の対話を聞けば、その上士たり、下士たり、商たり、農たるの区別は明《あきらか》に知るべし。(風俗を異にす)
右条々のごとく、上下両等の士族は、権利を異《こと》にし、骨肉の縁を異にし、貧富《ひんぷ》を異にし、教育を異にし、理財《りざい》活計《かっけい》の趣《おもむき》を異にし、風俗《ふうぞく》習慣《しゅうかん》を異にする者なれば、自《おのず》からまたその栄誉の所在《しょざい》も異なり、利害の所関《しょかん》も異ならざるを得ず。栄誉《えいよ》利害《りがい》を異にすれば、また従《したがっ》て同情|相憐《あいあわれ》むの念《ねん》も互《たがい》に厚薄《こうはく》なきを得ず。譬《たと》えば、上等の士族が偶然会話の語次《ごじ》にも、以下の者共には言われぬことなれどもこの事《こと》は云々《しかじか》、ということあり。下等士族もまた給人分《きゅうにんぶん》の輩《はい》は知らぬことなれども彼《か》の一条は云々、とて、互に竊《ひそか》に疑うこともあり憤《いきどお》ることもありて、多年|苦々《にがにが
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