に行《ゆき》て物を買う者なし。町の銭湯《せんとう》に入《い》る者なし。戸外に出《いず》れば袴《はかま》を着《つ》けて双刀を帯《たい》す。夜行は必ず提灯《ちょうちん》を携《たずさ》え、甚《はなはだ》しきは月夜にもこれを携《たずさう》る者あり。なお古風なるは、婦女子《ふじょし》の夜行に重大なる箱提灯《はこちょうちん》を僕《ぼく》に持たする者もあり。外に出《い》でて物を買うを賤《いや》しむがごとく、物を持つもまた不外聞《ふがいぶん》と思い、剣術道具釣竿の外は、些細《ささい》の風呂敷包《ふろしきづつみ》にても手に携うることなし。
下士はよき役を勤《つとめ》て兼《かね》て家族の多勢《たぜい》なる家に非ざれば、婢僕《ひぼく》を使わず。昼間《ひるま》は町に出《い》でて物を買う者少なけれども、夜は男女の別《べつ》なく町に出《いず》るを常とす。男子は手拭《てぬぐい》を以て頬冠《ほおかむ》りし、双刀を帯《たい》する者あり、或は一刀なる者あり。或は昼にても、近処《きんじょ》の歩行なれば双刀は帯《たい》すれども袴《はかま》を着《つ》けず、隣家の往来などには丸腰《まるごし》[#ここから割り注]無刀のこと[#こ
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