き、品行正雅の士といえども、この徳沢《とくたく》の範囲《はんい》を脱せんとするも、実際においてほとんど能《よく》すべからざることなり。藩にて廉潔《れんけつ》の役人と称し、賄賂《わいろ》役徳をば一切取らずとて、人もこれを信じ自《みず》からこれを許す者あれども、町人がこの役人へ安利《やすり》にて金を貸し、または態《わざ》と高利《こうり》にてその金を預り、または元値《もとね》を損して安物を売る等、様々《さまざま》の手段を用いてこれに近づくときは、役人は知らず識《し》らずして賄賂《わいろ》の甘き穽《わな》に陥《おちい》らざるを得ず。蓋《けだ》し人として理財商売の考あらざれば、到底《とうてい》その品行を全《まっと》うすること能わざるものなり。以上|枚挙《まいきょ》の件々はいずれも皆《みな》藩士常禄の他《ほか》に得るところのものなれども、今日《こんにち》に至《いたり》てはかかる無名間接の利益あることなし。藩士の困迫《こんぱく》する一の原因なり。
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 第六、上士族は大抵《たいてい》婢僕《ひぼく》を使用す。たといこれなきも、主人は勿論《もちろん》、子弟たりとも、自《みず》から町
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