すに、天保《てんぽう》時代の金にておよそ三千両なりという。この他、平日にても普請《ふしん》といい買物といい、また払物《はらいもの》といい、経済の不始末《ふしまつ》は諸藩同様、枚挙《まいきょ》に遑《いとま》あらず。もとより江戸の町人職人の金儲《かねもうけ》なれども、その一部分は間接に藩中一般の賑《にぎわい》たらざるを得ず。また国邑《こくゆう》にて文武の引立《ひきたて》といえば、藩士の面々《めんめん》は書籍《しょじゃく》も拝借《はいしゃく》、馬も鉄砲も拝借なり。借用の品を用いて無月謝の教師に就《つ》く、これまた大なる便利なり。なかんずく役人の旅費ならびに藩士一般に無利足《むりそく》拝借金|歟《か》、または下《く》だされ切りのごときは、現に常禄の外に直接の所得というべし。また藩の諸役所にて公然たる賄賂《わいろ》の沙汰《さた》は稀《まれ》なれども、自《おのず》から役徳《やくとく》なるものあり。江戸大阪の勤番より携《たずさえ》帰《かえ》る土産《みやげ》の品は、旅費の残《のこり》にあらざれば所謂《いわゆる》役徳を積《つみ》たるものより外ならず。
俗官《ぞっかん》汚吏《おり》はしばらく擱《さしお》
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