財の精細《せいさい》なること上士の夢にも知らざるもの多し。二人扶持《ににんぶち》とは一|箇月《かげつ》に玄米《げんまい》三|斗《と》なり。夫婦に三人の子供あれば一日に少なくも白米一升五合より二升は入用なるゆえ、現に一月二、三斗の不足なれども、内職の所得《しょとく》を以て麦《むぎ》を買い粟《あわ》を買い、或《あるい》は粥《かゆ》或は団子《だんご》、様々《さまざま》の趣向《しゅこう》にて食《しょく》を足《た》す。これを通語にて足《た》し扶持《ぶち》という。食物すでに足《た》るも衣服なかるべからず。すなわち家婦《かふ》の任《にん》にして、昼夜の別《べつ》なく糸を紡《つむ》ぎ木綿《もめん》を織り、およそ一婦人、世帯《せたい》の傍《かたわら》に、十日の労《ろう》を以て百五十目の綿を一反の木綿に織上《おりあぐ》れば、三百目の綿に交易《こうえき》すべし。これを方言《ほうげん》にて替引《かえびき》という。
 一度《いちど》は綿と交易してつぎの替引の材料となし、一度は銭と交易して世帯の一分《いちぶ》を助け、非常の勉強に非ざれば、この際に一反を余《あま》して私家《しか》の用に供するを得ず。娘の嫁入前《よめ
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