いりまえ》に母子《ぼし》ともに忙《いそがわ》しきは、仕度の品を買《かっ》てこれを製するがために非ず、その品を造るがためなり。或《あるい》はこれを買うときは、そのこれを買うの銭《ぜに》を作るがためなり。かかる理財の味《あじ》は、上士族の得て知るところに非ず。この点より論ずれば上士も一種の小華族というて可《か》なり。廃藩の後、士族の所得は大《おおい》に減じて一般の困迫《こんはく》というといえども、もしも今の上士の家禄を以てこれを下士に附与《ふよ》して下士従来の活計を立てしめなば、三、五年の間に必ず富有《ふゆう》を致すことあるべし。(理財活計の趣を異にす)
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 廃藩の後、藩士の所得|大《おおい》に減ずるとは、常禄《じょうろく》の高を減じたるをいうに非ず。中津藩にして古来|度々《たびたび》の改革にて藩士の禄を削《けず》り、その割合を古《いにしえ》に比すればすでに大《おおい》に減禄《げんろく》したるがごとくなるを以て、維新の後にも諸藩同様に更に減少の説を唱《とな》えがたき意味もあり、かつ当時流行の有志者が藩政を専《もっぱら》にすることなくして、その内実は禄を重んずるの種族が
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