ならず、あるいは全国の変乱にいたるも計るべからざりしに、徳川政府の始終、かつてその弊害を見ざりしは、ひっきょうするに、教育の学者をして常に政治社外にあらしめたるの功徳《こうとく》といわざるをえざるなり。
人、あるいはいわく、学問と政治とはもとより異なり、異なるがゆえに、学問所に政談を禁じて、多く政治の書を読ましめざるなり、その制法・規則さえ定まれば、二者の分界明白にして人を誤ることなし、との説あれども、ただ説にいうべくして、教育の実際に行わるべからざるの言なり。たとい、いかなる法則を設けて学問所を検束するも、いやしくもその教育を支配する学頭にして行政部内の人なれば、教育を受くる学生を禁じて政治の心なからしめんとするは、難易を問わずしてまずそのよくすべからざるを知るべし。
あるいは生徒を教訓警戒して、政談に喋々するなかれ、世上に何々を談ずる者あり、何々に熱心する者あり、はなはだ心得違《こころえちがい》なればこれにならうなかれと禁ずれば、その禁止の言葉の中におのずから他の党派に反対してこれを嫌忌《けんき》するの意味を含有するがゆえに、たといこれを禁じ了《おわ》るも、その学生の一類は、か
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