案に相違の不都合あるべきのみ。この不都合をもかえりみず、この失望にも懲《こ》りず、なおも奇計妙策をめぐらして、名は三千余方の兄弟にはかるといい、その内実の極意は、暗に政府を促して己が妙計を用いしめんと欲するにすぎず。区々たる政府の政《まつりごと》に熱中奔走して、自家の領分はこれを放却して忘れたるが如し。内を外にするというべきか、外を内にするというべきか、いずれにも本気の沙汰とは認め難し。政の字の広き意味にしたがえば、人民の政事《せいじ》には際限あるべからず。これを放却して誰に託せんと欲するか、思わざるのはなはだしきものというべし。この人民の政を捨てて政府の政にのみ心を労し、再三の失望にも懲りずして無益の談論に日を送る者は、余輩これを政談家といわずして、新奇に役談家《やくだんか》の名を下すもまた不可なきが如く思うなり。
 今の如く役談家の繁昌する時節において、国のために利害をはかれば、政府をしてその議論を用いしむるも害あり、用いしめざるもまた害あり。これを用いんか、奇計妙策、たちまち実際に行われて、この法を作り、かの律を製し、この条をけずり、かの目《もく》を加え、したがって出だせばしたが
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