とても私の口では云えない、況して私は若子さんと一緒に夢中になって、御兄さんの乗って居らッしゃる列車《くるま》を探したんですもの、人に揉《もま》れ揉れて押除けられたり、突飛ばされたりしながら。
下
若子さんの御兄さんに御目に掛った時は、何様《どんな》に嬉しかったでしょう。今思い出しても胸が動悸動悸《どきどき》しますの。況して若子さんの喜び様ッてありませんでした。御二人手を御取合で互に涙|含《ぐ》んでらッした御様子てッたら、私も戦地へお行でなさる兄さんが、急に欲しくなった位でした。
『美子さん、勉強なさいよ。勉強して女の偉い人になって下さい。若子を何時までも友達にして下さってね、私の母の処へも時々遊びに行って下さい。よいですか。』
私は唯胸が痛くなるばかりで、御返辞さえ出来ないのでした。
『兄さん、』と、若子さんは御呼掛でしたが、辛ッと私に聞こえる位の声で、『あのう、阿母さまも私も待って居てよ。』
『生命《いのち》があったらば。』と莞爾なすって。
私は若子さんの意《こころ》の中《うち》を思遣って、見て居られなくなって横を向きました。
すると、直き傍で急に泣声が発《おこ》っ
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