さんと顔を見合せて居ました。
『……名誉も義務も軍人なればこそよ。軍人なきゃ何でもない。私の兄さんなんか、国の為に死ななきゃならない義理は無いわ、ほほ、死ぬのが名誉だッて。』
 其方の声がぴたと止まったら、何《どう》なすったかと思って見ると、彼の可厭な学生が其の顔を凝乎《じっ》と見て居るのでした。
『あらッ、また来てよ。』
 若子さんと私が異口同音《いっしょ》に斯う云って、云合せた様に其処を去ろうとしますと、先刻《さっき》入口の処で見掛けた彼の可哀相な女の人が、其処に来合せたのでした。私は憎い人と可愛い人が、其処に集ってる様な気がして居ました。
『あらッ、プラットフォームに入れてよ。彼様《あんな》に人が入ってよ。美子さん早く入らッしゃい。』 
 若子さんも私も駆出してプラットフォームへ入ったのでした。此処とても直きに一杯の人になって了ったし、汽車がもう着くかもう着くかと、其方にばかし気を奪《と》られて、彼の二三人の人の事は拭った様に忘れて居ました。
 万歳の声が其那《そこら》一体――プラットフォームからも、停車場の中からも盛んに起ると間もなく汽車が着いたのでした。其時の混雑と云ったら、
前へ 次へ
全12ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
広津 柳浪 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング