なさいよ、可怖《こわ》いわ。』
若子さんが眼で教えて下さったので、其方を見ましたら、容色の美しい、花月巻に羽衣肩掛《はねショール》の方が可怖い眼をして何処を見るともなく睨んで居らしッたの。それは可怖い目、見る物を何でも呪って居らッしゃるんじゃないかと思う位でした。
私も覚えず、『可怖い方だわねえ。』
若子さんは可怖い物見たさと云った様な風をなすって、口も利かないで、其方《そのかた》を見て居らしッたのでした。
すると、其方が私達の方へ歩んで御居ででした。途端に其処に通掛った近衛の将校の方があったのです――凛々《りり》しい顔をなすった戦争《いくさ》に強そうな方でしたがねえ、其将校の何処が気に入らなかったのか、其|可怖《こわい》眼をした女の方が、下墨《さげす》む様な笑みを浮べて、屹度《きっと》お見でしたの。
『彼人達は死ぬのが可いのよ。死ぬのが商売の軍人さんじゃないか。何も人の子まで連れてって、無理に殺さないだって可いわ。何の為か知らないけれども、能くマア殺しに行くわねえ。』と、頬には冷かな笑みがまた見えるのでした。
無論大きな声ではなかったが、私達には能く聞えたから、覚えず若子
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