そんな気になッたんだよ。そんなに薄情な人とは、私しゃ今まで知らなかッたよ。まさかに手拭紙にもされないからとは、あんまり薄情過ぎるじゃないかね。平田さんをそんなに忘れておしまいでは、あんまり義理が悪るかろうよ」
「だッて、もう逢えないと定《き》まッてる人のことを思ッたッて……」と、吉里はうつむいた。
「私しゃ実に呆れたよ。こんな稼業《かぎょう》をしてるんだから、いつまでも――一生その人に情《じょう》を立ッて、一人でいることは出来ないけれども、平田さんを善さんと一しょにおしでは、お前さん済むまいよ。善さんがどんなに可愛いか知らないが、平田さんを忘れちゃ、あんまり薄情だね」
「私しゃ善さんが可愛いんさ。平田さんよりいくら可愛いか知れないんだよ。平田さんのことを……、まアさほどにも思わないのは、私しゃよッぽど薄情なんだろうさ」と、吉里はうつむいてじッと襟《えり》を噛んだ。
「本統に呆《あき》れた人だよ。いいとも、お前さんの勝手におし。お前さんが善さんと今のようにおなりのも、決して悪いとは思ッていなかッたんだが、今日という今日、薄情なことを知ッたから、もうお前さんとは口も利かないよ。さア、早く帰
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