今戸心中
広津柳浪

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)太空《そら》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|片《ぺん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]
−−

     一

 太空《そら》は一|片《ぺん》の雲も宿《とど》めないが黒味渡ッて、二十四日の月はまだ上らず、霊あるがごとき星のきらめきは、仰げば身も冽《しま》るほどである。不夜城を誇り顔の電気燈にも、霜枯れ三月《みつき》の淋《さび》しさは免《のが》れず、大門《おおもん》から水道尻《すいどうじり》まで、茶屋の二階に甲走《かんばし》ッた声のさざめきも聞えぬ。
 明後日《あさッて》が初酉《はつとり》の十一月八日、今年はやや温暖《あたた》かく小袖《こそで》を三枚《みッつ》重襲《かさね》るほどにもないが、夜が深《ふ》けてはさすがに初冬の寒気《さむさ》が身に浸みる。
 少時前《いまのさき》報《う》ッたのは、角海老《かどえび》の大時計の十二時で
次へ
全86ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
広津 柳浪 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング