一線《ひとすじ》剰《のこ》さず、廊下に雑巾まで掛けてしまった。
 出入りの鳶《とび》の頭《かしら》を始め諸商人、女髪結い、使い屋の老物《じじい》まで、目録のほかに内所から酒肴《しゅこう》を与えて、この日一日は無礼講、見世から三階まで割れるような賑《にぎ》わいである。
 娼妓《しょうぎ》もまた気の隔《お》けない馴染みのほかは客を断り、思い思いに酒宴を開く。お職女郎の室は無論であるが、顔の古い幅の利く女郎の室には、四五人ずつ仲のよい同士が集《よ》ッて、下戸上戸飲んだり食ッたりしている。
 小万はお職ではあり、顔も古ければ幅も利く。内所の遣《つか》い物に持寄りの台の数々、十畳の上の間から六畳の次の間までほとんど一杯になッていた。
 鳶の頭と店の者とが八九人、今|祝《し》めて出て行ッたばかりのところで、小万を始め此糸《このいと》初紫《はつむらさき》初緑名山千鳥などいずれも七八分の酔《え》いを催し、新造《しんぞ》のお梅まで人と汁粉《しるこ》とに酔ッて、頬から耳朶《みみたぶ》を真赤にしていた。
 次の間にいたお梅が、「あれ危ない。吉里さんの花魁、危のうござんすよ」と、頓興《とんきょ》な声を上げたの
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