に包んで傍に置いた。
今|一個《ひとつ》の抽匣から取り出したのは、一束《ひとつか》ねずつ捻紙《こより》で絡《から》げた二束《ふたつ》の文《ふみ》である。これはことごとく平田から来たのばかりである、捻紙を解いて調べ初めて、その中から四五本|選《え》り出して、涙ながら読んで涙ながら巻き納めた。中には二度も三度も読み返した文もあッた。涙が赤い色のものであッたら、無数の朱点が打たれたらしく見えた。
この間も吉里はたえず耳を澄ましていたのである。今何を聞きつけたか、つと立ち上った。廊下の障子を開けて左右を見廻し、障子を閉めて上の間の窓の傍に立ち止ッて、また耳を澄ました。
上野の汽笛が遠くへ消えてしまッた時、口笛にしても低いほどの口笛が、調子を取ッて三声ばかり聞えると、吉里はそっと窓を開けて、次の間を見返ッた。手はいつか袂から結び文を出していた。
十一
午前《あさ》の三時から始めた煤払いは、夜の明けないうちに内所をしまい、客の帰るころから娼妓《じょろう》の部屋部屋を払《はた》き始めて、午前《ひるまえ》の十一時には名代部屋を合わせて百|幾個《いくつ》の室《へや》に蜘蛛の網《す》
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