、花魁」
お熊は廊下へ出るとそのまま階下《した》へ駈け出して行った。
吉里はじッと考えて、幾たびとなく溜息を吐《つ》いた。
「もういやなこッた。この上苦労したッて――この上苦労するがものアありゃしない。私しゃ本統に済まないねえ。西宮さんにも済まない。小万さんにも済まない。ああ」
吉里は歎息しながら、袂《たもと》から皺《しわ》になッた手紙を出した。手紙とは言いながら五六行の走り書きで、末にかしくの止めも見えぬ。幾たびか読み返すうちに、眼が一杯の涙になッた。ついに思いきった様子で、宛名《あてな》は書かず、自分の本名のお里のさ[#「さ」に傍点]印《じるし》とのみ筆を加え、結び文にしてまた袂へ入れた。それでまたしばらく考えていた。
廊下の方に耳を澄ましながら、吉里は手箪笥の抽匣《ひきだし》を行燈の前へ持ち出し、上の抽匣の底を探ッて、薄い紙包みを取り出した。中には平田の写真が入ッていた。重ね合わせてあッたのは吉里の写真である。
じッと見つめているうちに、平田の写真の上にはらはらと涙が落ちた。忙《あわ》てて紙で押えて涙を拭き取り、自分の写真と列《なら》べて見て、また泣いた上で元のように紙
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