で、一同その方を見返ると、吉里が足元も定まらないまで酔ッて入ッて来た。
 吉里は髪を櫛巻きにし、お熊の半天を被《はお》ッて、赤味走ッたがす[#「がす」に傍点]糸織に繻子《しゅす》の半襟を掛けた綿入れに、緋《ひ》の唐縮緬《とうちりめん》の新らしからぬ長襦袢《ながじゅばん》を重ね、山の入ッた紺博多《こんはかた》の男帯を巻いていた。ちょいと見たところは、もう五六歳《いつつむッつ》も老《ふ》けていたら、花魁の古手の新造落《しんぞお》ちという風俗である。
 呆《あき》れ顔をしてじッと見ていた小万の前に、吉里は倒れるように坐ッた。
 吉里は蒼い顔をして、そのくせ目を坐《す》えて、にッこりと小万へ笑いかけた。
「小万さん。私しゃね、大変|御無沙汰《ごぶさた》しッちまッて、済まない、済まない、ほんーとうに済まないんだねえ。済まないんだよ、済まないんだよ、知ッてて済まないんだからね。小万さん、先日《いつか》ッからそう[#「そう」に傍点]思ッてたんだがね、もういい、もういい、そんなことを言ッたッて、ねえ小万さん、お前さんに笑われるばかしなんだよ。笑う奴ア笑うがいい。いくらでもお笑い。さアお笑い。笑ッておく
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