別れて、他に楽しみもなくッて、何で四月までこんな真似がしていられるものか。他の花魁のように、すぐ後に頼りになる人が出来そうなことはなし、頼みにするのは西宮さんと小万さんばかりだ。その小万さんは実に羨ましい。これからいつも見せられてばかりいるのか。なぜ平田さんがあんなことになッたんだろう。も一度平田さんが来てくれるようには出来ないのか。これから毎日毎日いやな思いばかりするのかと思いながら、善吉が自分の前に酒を飲んでいる、その一挙一動がことごとく眼に見えていて、これがその人であッたならと、覚えず溜息も吐《つ》かれるのである。
 吉里は悲しくもあり、情なくもあり、口惜《くや》しくもあり、はかなくも思うのである。詰まるところは、頼りないのが第一で、どうしても平田を忘れることが出来ないのだ。
 今日限りである、今朝が別れであると言ッた善吉の言葉は、吉里の心に妙にはかなく情なく感じて、何だか胸を圧《おさ》えられるようだ。
 冷遇《ふッ》て冷遇て冷遇《ふり》抜いている客がすぐ前の楼《うち》へ登《あが》ッても、他の花魁に見立て替えをされても、冷遇《ふッ》ていれば結局《けッく》喜ぶべきであるのに、外聞の
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