してくれて、お母さんがいたなら、お前を故郷《くに》へ連れて行くと、どんなに可愛がって下さるだろうと、平田の寝物語に聞いていた通り可愛がッてくれるかと思うと、平田の許嫁《いいなずけ》の娘というのが働いていて、その顔はかねて仲の悪い楼内《うち》の花子という花魁そのままで、可愛らしいような憎らしいような、どうしても憎らしい女で、平田が故郷《くに》へ帰ッたのはこの娘と婚礼するためであッたことも知れて来た。やッぱりそうだッた、私しゃ欺《だま》されたのだと思うと、悲しい中にまた悲しくなッて涙が止らなくなッて来る。西宮さんがそんな虚言《うそ》を言う人ではないと思い返すと、小万と二人で自分をいろいろ慰めてくれて、小万と姉妹《きょうだい》の約束をして、小万が西宮の妻君になると自分もそこに同居して、平田が故郷《くに》の方の仕法《ほう》がついて出京したら、二夫婦揃ッて隣同士家を持ッて、いつまでも親類になッて、互いに力になり合おうと相談もしている。それも夢のように消えて、自分一人になると、自由《まま》にならぬ方の考えばかり起ッて来て、自分はどうしても此楼《ここ》に来年の四月まではいなければならぬか。平田さんに
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