》のお職女郎。娼妓《おいらん》じみないでどこにか品格《ひん》もあり、吉里には二三歳《ふたつみッつ》の年増《としま》である。
「だッて、あんまりうるさいんだもの」
「今晩もかい。よく来るじゃアないか」と、小万は小声で言ッて眉を皺《よ》せた。
「察しておくれよ」と、吉里は戦慄《みぶるい》しながら火鉢の前に蹲踞《しゃが》んだ。
 張り替えたばかりではあるが、朦朧《もうろう》たる行燈《あんどう》の火光《ひかげ》で、二女《ふたり》はじッと顔を見合わせた。小万がにッこりすると吉里もさも嬉《うれ》しそうに笑ッたが、またさも術なそうな色も見えた。
「平田さんが今おいでなさッたから、お梅どんをじきに知らせて上げたんだよ」
「そう。ありがとう。気休めだともッたら、西宮さんは実があるよ」
「早く奥へおいでな」と、小万は懐紙で鉄瓶《てつびん》の下を煽《あお》いでいる。
 吉里は燭台《しょくだい》煌々《こうこう》たる上《かみ》の間《ま》を眩《まぶ》しそうに覗《のぞ》いて、「何だか悲アしくなるよ」と、覚えず腮を襟《えり》に入れる。
「顔出しだけでもいいんですから、ちょいとあちらへおいでなすッて下さい」と、例のお熊
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