はかない縁なんでしょうよ、ねえ。考えると、小万さんは羨《うらや》ましい」と、吉里はしみじみ言ッた。
「いや、私も来ないつもりだ」と、西宮ははッきり言い放ッた。
「えッ」と、吉里はびッくりして、「え。なぜ。どうなすッたの」と、西宮の顔を見つめて呆れている。
「いや、なぜということもない。辛いのは誰しも同一《おんなじ》だ。お前さんと平田の苦衷《こころ》を察しると、私一人どうして来られるものか」
「なぜそんなことをお言《い》なさるの。私ゃそんなつもりで」
「そりゃわかッてる。それで来る来ないと言うわけじゃない。実に忍びないからだ」
「いや、いや、私ゃ否《いや》ですよ。私が小万さんに済みません。平田さんには別れなければならないし、兄さんでも来て下さらなきゃ、私ゃどうします。私が悪るかッたら謝罪《あやま》るから、兄さん今まで通り来て下さいよ。私を可哀そうだと思ッて来て下さいよ。え、よござんすか。え、え」と、吉里は詫《わ》びるように頼むように幾たびとなく繰り返す。
 西宮はうつむいて眼を閉《ねむ》ッて、じッと考えている。
 吉里はその顔を覗き込んで、「よござんすか。ねえ兄さん、よござんすか。私ゃ兄
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