まま》にならないもんだことねえ」と、吉里は西宮をつくづく視《み》て、うつむいて溜息を吐《つ》く。
「座敷の花魁は遅うございますことね。ちょいと見て参りますよ」と、お梅は次の間で鉄瓶に水を加《さ》す音をさせて出て行ッた。
「西宮さん」と、吉里は声に力を入れて、「私ゃどうしたらいいでしょうね。本統に辛いの。私の身にもなッて察して下さいよ」
「実に察しる」と、西宮はしばらく考え、「実に察しているのだ。お前さんに無理に頼んだ私の心の中も察してもらいたい。なかなか私に言えそうもなかッたから、最初《はじめ》は小万に頼んで話してもらうつもりだッたのさ。小万もそんなことは話せないて言うから、しかたなしに私が話したようなわけだからね、お前さんが承知してくれただけ、私ゃなお察しているんだよ。三十面を下げて、馬鹿を尽してるくらいだから、他《ひと》には笑われるだけ人情はまア知ッてるつもりだ。どうか、平田のためだと思ッて、我慢して、ねえ吉里さん、どうか頼むよ」
「しかたがありませんよ、ねえ兄さん」と、吉里はついに諦めたかのごとく言い放しながらなお考えている。
「私もこんな苦しい思いをしたことはない」
「こういう
前へ 次へ
全86ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
広津 柳浪 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング