っとだ、きっとだ」
「いい気味だ。謝罪《あやまら》せてやッた」
「ははははは。お梅どんに擽られてたまるもんか。男を擽ぐる急所を心得てるんだからね」
「何とでもおっしゃい。どうせあなたには勝《かな》いませんよ」と、お梅は立ち上りながら、「御膳《ごぜん》はお後で、皆さんと御一しょですね。もすこししてからまた参ります」と、次の間へ行ッた。
誰が覗いていたのか、障子をぴしゃりと外から閉《た》てた者がある。
「あら、誰か覗いてたよ」と、お梅が急いで障子を開けると、ぱたぱたぱたぱたと廊下を走る草履の音が聞えた。
「まア」と、お梅の声は呆《あき》れていた。
四
「どうしたんだ」と、西宮は事ありそうに入ッて来たお梅を見上げた。
「善さんですよ。善さんが覗いていなすッたんですよ」と、お梅は眼を丸くして、今顔を上げた吉里を見た。
「おえない妬漢《じんすけ》だよ」と、吉里は腹立たしげに見えた。
「さっきからね、花魁のお座敷を幾たびも覗いていなさるんですよ。平田さんが怒んなさりゃしまいかと思ッて、本統に心配しましたよ」
「あんまりそんな真似をすると、謝絶《ことわ》ッてやるからいい。ああ、自由《
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