、奉公人のくせに」
「もういいじゃアないかね。新造衆《しんぞしゅう》なんか相手にしたッて、どうなるもんかね」
 小万は上の間に来て平田の前に座ッた。
 平田は待ちかねたという風情で、「小万さん、一杯|献《あ》げようじゃアないかね」
「まアお熱燗《あつ》いところを」と、小万は押えて平田へ酌《しゃく》をして、「平田さん、今晩は久しぶりで酔ッて見ようじゃありませんか」と、そッと吉里を見ながら言ッた。
「そうさ」と、平田はしばらく考え、ぐッと一息に飲み乾《ほ》した猪口を小万にさし、「どうだい、酔ッてもいいかい」
「そうさなア。君まで僕を困らせるんじゃアないか」と、西宮は小万を見て笑いながら、「何だ、飲めもしないくせに。管《くだ》を巻かれちゃア、旦那様《だんなさま》がまたお困り遊ばさア」
「いつ私が管を巻いたことがあります」と、小万は仰山《ぎょうさん》らしく西宮へ膝を向け、「さアお言いなさい。外聞の悪いことをお言いなさんなよ」
「小万さん、お前も酔ッておやりよ。私ゃ管でも巻かないじゃアやるせがないよ。ねえ兄さん」と、吉里は平田をじろりと見て、西宮の手をしかと握り、「ねえ、このくらいなことは勘忍し
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