て下さるでしょう」
「さア事だ。一人でさえ持て余しそうだのに、二人まで大敵を引き受けてたまるもんか。平田、君が一方を防ぐんだ。吉里さんの方は僕が引き受けた。吉里さん、さア思うさま管を巻いておくれ」
「ほほほ。あんなことを言ッて、また私をいじめようともッて。小万さん、お前加勢しておくれよ」
「いやなことだ。私ゃ平田さんと仲よくして、おとなしく飲むんだよ。ねえ平田さん」
「ふん。不実同士|揃《そろ》ッてやがるよ。平田さん、私がそんなに怖《こわ》いの。執《と》ッ着《つ》きゃしませんからね、安心しておいでなさいよ。小万さん、注《つ》いでおくれ」と、吉里は猪口を出したが、「小杯《ちいさく》ッて面倒くさいね」と傍《そば》にあッた湯呑《ゆの》みと取り替え、「満々《なみなみ》注いでおくれよ」
「そろそろお株をお始めだね。大きい物じゃア毒だよ」
「毒になッたッてかまやアしない。お酒が毒になッて死んじまッたら、いッそ苦労がなくッて……」と、吉里はうつむき、握ッていた西宮の手へはらはらと涙を零《こぼ》した。
 平田は額に手を当てて横を向いた。西宮と小万は顔を見合わせて覚えず溜息《ためいき》を吐《つ》いた。

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