いアルバムを見せてもらつたことがある。昔の写真のなかから、僕は久し振りに懐しい面影を見つけた。僕が少年の頃、死別れた姉の写真であつた。こんな優しい可愛い娘さんだつたのかと、僕はそんな女のひとがこの世に存在してゐたことを不思議に思ひ、僕がその女の弟であつたことまで誇らしく思へた。姉は結婚して二年目に死んだのだから、娘さんとは云へないだらうが、僕の目にはあまりに可憐で清楚なものが微笑みかけ、それが柔かく胸を締めつけるやうであつた。僕は大切にその面影を眼底に焼きつけておいた。
それから僕はときどき、こんな想像に耽けりだした。もしも死んだお前が遙かな世界を旅してゐるのであるなら、どうか僕の死んだ姉のところを訪ねて行つて欲しいと。だが、この祈願は、今ではかなへられてゐるのではないかと思ふ。僕は、眼もとどかない遙かなところで、お前と僕の姉との美しい邂逅を感じることが出来るやうだ。
お前と死別れて一年もたたないうちに、僕は郷里の街の大壊滅を見、それからつぎつぎに惨めな目に遇つて来てゐるが、僕にはどこか眼もとどかない遙かなところで、幸福な透明な世界が微笑みかけてくる瞬間があるやうだ。
僕の姉は僕
前へ
次へ
全27ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
原 民喜 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング