りと板の上に身を横たへる。ぐつたりとして、かすかに泣きたいやうな熱いものが、……僕はぐつたりと板に横たはつてゐるのだ。
 と、暗闇のなかにある堅い板の抵抗感が、僕に宿なしの意識を突きつける。僕はそつと板の感触をはづし、軽く軽く、できるだけ身を軽く感じやうとしてゐる。が、どうしても、ぐつたりとしたものが僕を押しつけてくる。
 ふと僕はさつきから、何か小さな、ぼんやりした光を感じてゐたやうな気がする。見ると、その光はたしかに回転窓の三インチばかりの隙間のところから射して来るのだ。僕はだんだん不思議な気持がしてくる。たしかに、あれは星の光なのだが、どうしてたつた一つの星があんな遙かなところから、こんな小さな隙間に忍び込んで来ることができるのか。今夜のやうに、どんよりとした空に、今の時刻を選んで、僕の方に瞬きだすことができるのか。この小さな光はまるで無造作に僕のところへ滑り込んできて何気なく合図してゐる精霊のやうなのだ。……今、僕の眼の前には、昼間の、あの靄を含んだ柔らかい空気が顫へだす。地の果てにある水晶宮のキラキラした泉の姿が……。
 僕はお前の骨壺を持つて郷里に戻ると、その時、兄の家で古
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