い紙のやうなものが仄かに見える。たしかあそこはいつも僕の食事が置いてある場所なのだ。僕はおそるおそる床板の上を歩いてゆく。匐い寄るやうな気分で、椅子の上に腰を下す。テーブルの上の新聞紙をそつと除けてみると、たしかに何か食べものが置いてある。僕は手探りで箸を探す。だが、ふとぼんやり疑が浮ぶ。僕は食べて差しつかへないのだらうか、これはほんとに僕のだらうか……。何かわからないが僕に課せられてゐる苛責が、それが冷やかに僕の眼の前に据ゑてあるのではないか……。だが、僕はわからないが、その、しーんとしたものを既に食べ始めてゐる。冷たい菜つぱ汁とずるずるの甘藷が、暗闇のなかで僕に感じられる。僕は食べながら、かすかに泣いてゐるやうな気がする。どこか体がぐつたり熱くなつてゆくやうな、やりきれない感覚に悩まされる。僕はひそひそと静かに急いで食べ了つてしまふ。それから、椅子を離れ、そろそろ闇のなかを手探りで歩く。細い細い階段を泳ぐやうに登つてゆく。僕の部屋の扉を手探りで押す。真暗な小さなガラス箱の部屋が僕に戻つてくる。やつと戻つたのだ。僕は蝙蝠傘をそつと板の間に置き、肩にぶらさげた雑嚢を外す。それから、ごろ
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