であった。手助に行ってた妹もここで変調をきたし、二三日前から寝込んでいるのだった。姉は私の来たことを知ると、
「どんな顔をしてるのか、こちらへ来て見せて頂だい、あんたも病気だったそうだが」と蚊帳の中から声をかけた。
話はあの時のことになった。あの時、姉たちは運よく怪我《けが》もなかったが、甥は一寸《ちょっと》負傷したので、手当を受けに江波まで出掛けた。ところが、それが却《かえ》っていけなかったのだ。道々、もの凄《すご》い火傷者を見るにつけ、甥はすっかり気分が悪くなってしまい、それ以来元気がなくなったのである。あの夜、火の手はすぐ近くまで襲って来るので、病気の義兄は動かせなかったが、姉たちは壕《ごう》の中で戦《おのの》きつづけた。それからまた、先日の颱風《たいふう》もここでは大変だった。壊れている屋根が今にも吹飛ばされそうで、水は漏り、風は仮借なく隙間《すきま》から飛込んで来、生きた気持はしなかったという。今も見上げると、天井の墜ちて露出している屋根裏に大きな隙間があるのであった。まだ此処《ここ》では水道も出ず、電燈も点《つ》かず、夜も昼も物騒《ぶっそう》でならないという。
私は義兄
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