廃墟から
原民喜
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)廿日市《はつかいち》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)全身|硝子《ガラス》の破片で
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から2字上げ](昭和二十二年十一月号『三田文学』)
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八幡村へ移った当初、私はまだ元気で、負傷者を車に乗せて病院へ連れて行ったり、配給ものを受取りに出歩いたり、廿日市《はつかいち》町の長兄と連絡をとったりしていた。そこは農家の離れを次兄が借りたのだったが、私と妹とは避難先からつい皆と一緒に転《ころ》がり込んだ形であった。牛小屋の蠅《はえ》は遠慮なく部屋中に群れて来た。小さな姪《めい》の首の火傷《やけど》に蠅は吸着いたまま動かない。姪は箸《はし》を投出して火のついたように泣喚《なきわめ》く。蠅を防ぐために昼間でも蚊帳《かや》が吊《つ》られた。顔と背を火傷している次兄は陰鬱《いんうつ》な顔をして蚊帳の中に寝転んでいた。庭を隔てて母屋《おもや》の方の縁側に、ひどく顔の腫《は》れ上った男の姿――そんな風な顔はもう見倦《みあき》る程見せら
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