ことがあるので、多分その所為だらうと云はれてゐましたが、東京の家へ戻つて来てから、少しづつ意識が変になつて、癲癇のやうな徴候が生じるのです。しまひには御不浄に通ふことさえ本人の意志どほり行かなくなつたので、家族に持てあまされてゐました。癲癇なら外科手術で治療できるかもしれないといふので病院に入院さされてゐました。ところが入院して四五日目に亡くなつてしまつたのです。それで病院ではその人の頭を解剖してみました。すると脳のいたるところに小さな白い繭が出来てゐるのです。脳のなかに寄生虫が一杯ゐたわけなのです」
ふと私は自分の脳に何か暗い影が横切るやうな気持だつたが、恰度そこへSが帰つて来た。それで話はすぐ他の話題に移つて行つた。が、暫くすると、Sもやはり脳のなかにある白い繭のことから余程シヨツクをうけてゐるらしく、不安な顔つきで奇怪な病気のことを云ひだした。それは私がSの細君から聞いた筋と同じだつたが、その病気がエヒモコツクスという寄生虫のためらしいこと、普通その寄生虫は警魚といふ中国の魚にゐて刺身などから感染すること、人体にとりつくと全身いたるところに切傷のやうな傷跡を発生するが、それが脳
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