リヲ
チカラノアリツタケヲ
オ母サン オカアサン
断末魔ノカミツク声
ソノ声ガ
コチラノ堤ヲノボラウトシテ
ムコウノ岸ニ ニゲウセテユキ
[#ここで字下げ終わり]
それらの声はどこへ逃げうせて行つただらうか。おんみたちの背負されてゐたギリギリの苦悩は消えうせたのだらうか。僕はふらふら歩き廻つてゐる。僕のまはりを歩き廻つてゐる無数の群衆は……僕ではない。僕ではない。僕ではない。僕ではなかつたそれらの声はほんたうに消え失せて行つたのか。それらの声は戻つてくる。僕に戻つてくる。それらの声が担つてゐたものの壮厳さが僕の胸を押潰す。戻つてくる、戻つてくる、いろんな声が僕の耳に戻つてくる。
[#ここから2字下げ]
アア オ母サン オ父サン 早ク夜ガアケナイノカシラ
[#ここで字下げ終わり]
窪地で死悶えてゐた女学生の祈りが僕に戻つてくる。
[#ここから2字下げ]
兵隊サン 兵隊サン 助ケテ
[#ここで字下げ終わり]
鳥居の下で反転してゐる火傷娘の真赤な泣声が僕に戻つてくる。
[#ここから2字下げ]
アア 誰カ僕ヲ助ケテ下サイ 看護婦サン 先生
[#ここで字下げ終わり]
真黒な口をひらいて、き
前へ
次へ
全60ページ中42ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
原 民喜 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング