鎮魂歌
原民喜

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)鬣《たてがみ》のやうに

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 美しい言葉や念想が殆ど絶え間なく流れてゆく。深い空の雲のきれ目から湧いて出てこちらに飛込んでゆく。僕はもう何年間眠らなかつたのかしら。僕の眼は突張つて僕の唇は乾いてゐる。息をするのもひだるいやうな、このふらふらの空間は、ここもたしかに宇宙のなかなのだらうか。かすかに僕のなかには宇宙に存在するものなら大概ありさうな気がしてくる。だから僕が何年間も眠らないでゐることも宇宙に存在するかすかな出来事のやうな気がする。僕は人間といふものをどのやうに考へてゐるのかそんなことをあんまり考へてゐるうちに僕はたうとう眠れなくなつたやうだ。僕の眼は突張つて僕の唇は乾いてゐる、息をするのもひだるいやうな、このふらふらの空間は……。
 僕は気をはつきりと持ちたい。僕は僕をはつきりとたしかめたい。僕の胃袋に一粒の米粒もなかつたとき、僕の胃袋は透きとほつて、青葉の坂路を歩くひよろひよろの僕が見えてゐた。あのとき僕はあ
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