、それはみなお前たちの嘆きのせゐだ。僕のなかで鳴りひびく鈴、僕は鈴の音にききとれてゐたのだが……。
 だが、このふらふらの揺れかへる、揺れかへつた後の、また揺れかへりの、ふらふらの、今もふらふらと揺れかへる、この空間は僕にとつて何だつたのか。めらめらと燃えあがり、燃え畢つた後の、また燃えなほしの、めらめらの、今も僕を追つてくる、この執拗な焔は僕にとつて何だつたのか。僕は汽車から振落されさうになる。僕は電車のなかで押つぶされさうになる。僕は部屋を持たない。部屋は僕を拒む。僕は押されて振落されて、さまよつてゐる。さまよつてゐる。さまよつてゐる。さまよつてゐるのが人間なのか。人間の観念と一緒に僕はさまよつてゐる。
 人間の観念。それが僕を振落し僕を拒み僕を押つぶし僕をさまよはし僕に喰らひつく。僕が昔僕であつたとき、僕がこれから僕であらうとするとき、僕は僕にピシピシと叩かれる。僕のなかにある僕の装置。人間のなかにある不可知の装置。人間の核心。人間の観念。観念の人間。洪水のやうに汎濫する言葉と人間。群衆のやうに雑沓する言葉と人間。言葉。言葉。言葉。僕は僕のなかにある ESSAY ON MAN の
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