きく目を見開いたまゝ飛ばされていつた。窓硝子の破片が嵐にまかれた木の葉みたいにおそいかゝる。切られるわいと見ているうちにちやりちやりと右半身が切られてしまつた。右の眼の上と耳のあたりが特別大創らしく、生温い血が噴いては頸へ流れ伝わる。痛くはない。目にみえぬ大きな拳骨が空中を暴れ廻る。寝台も、椅子も、戸棚も、鉄兜も、靴も服もなにもかも叩き壊され、投げ飛ばされ、掻き廻され、がらがらと音をたてて、床に転がされている私の身体の上に積み重なつてくる。埃つぽい風がいきなり鼻の奥へ突込んできて、息がつまる。私は目をかつと見開いてやはり窓をみていた。外はみるみるうす暗くなつてゆく。ぞうぞうと潮鳴の如く、ごうごうと嵐の如く空気はいちめんに騒ぎ廻り、板切れ、着物、トタン屋根、いろんな物が灰色の空中をぐるぐる舞つている。あたりはやがてひいやりと野分ふく秋の末のように、不思議な索莫さに閉ざされて来た。これは唯ごとではないらしい。」
そして、その後次々に展回される惨状に対し、この著者は科学者としての眼を次第に働かせて行くのだが、八月十日一枚のビラからあれ[#「あれ」に傍点]の正体を知ると、
「私達数名の教室員
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