長崎の鐘
原民喜
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【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)あれ[#「あれ」に傍点]
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No more Hiroshima! これは二度ともう広島の惨禍を繰返すな、といふ意味なのだらうが、ときどき僕は自分自身にむかつて、かう呟く。広島のことはもう沢山だ。どうして僕は原子爆弾のことばかり書いたり考へたりするのだらう、ノーモア・ヒロシマ、ノーモア・ヒロシマ……と。それだのにふと街を歩いてゐて電車のスパークを視ただけでも、僕の思考は真二つに引裂かれ、パツと何もかも地上一切のものを剥ぎとつてしまふ一刹那がすぐ向ふに描かれるのだ……。
昭和二十年八月九日、広島から四里あまり離れた地点で、僕は防空壕の中にゐた、あの不思議な新兵器のことは、この附近の人にも知れ渡つてゐたが、まだ何といふ呼び方をするのか判らなかつた。壕のなかで一人の青年が僕に話しかけた。
「京都もやられたさうですね、あれ[#「あれ」に傍点]に」
あれ[#「あれ」に傍点]に……。あれ[#「あれ」に傍点]は今もすぐ頭上に閃くかもしれなかつた。京都も大阪も東京も、そ
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