焼跡へバラツクを建てるので奔走してをります。焼跡といへば去年の十二月埋めてゐたものを掘り出しに行きましたが、そのなかに南京豆が健在だつたのは悦ばしくありました。炒つて食べましたが死にもしませんでした。
僕はあの英文法の Subjunctive といふ奴を頻りに考へさされます。もしあの時、ああしたら、かうはならなかつただらうに――と、焼き出された人間は愚痴ります。Subjunctive Past は愚痴を現はす mood なのでせう。
御健筆を祈ります。
[#地から3字上げ]二月十五日 原民喜
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永井善次郎様
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●昭和二十一年七月三日 大森区馬込東二ノ八九九末田方より 杉並区阿佐谷 永井善次郎宛
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先日は御世話になりました。
こんどの部屋は落着いてゐるので、このまゝこゝへ居坐りたい気がします。光太が詩を送つて来ました。何処かへ掲載してほしいといふのですが。心あたりはありませんか。
三田文学十号が出ました。一部送らせます。
信濃へ行かれる前に一度逢ひたいと思
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