気にはなれず、飢ゑと寒さにふるへながら暮して居ります。一そこの地を離れて何処かもつと住みよい処へ移りたいのですが、汽車は当分駄目だといふことだし、そんなことをきかされるとひどく気が滅入つてなりません。東京の近くで月三百円位でおいてくれる所はないでせうか。参考までに東京の下宿料がわかつたらお知らせ下さい。この間原製作所の解散式がありましたが商人達の云ふことには、今後は百姓になるかそれとも闇屋になるかしなくては、暮しては行けないと申しますが、誰も彼も闇屋になつたのではどうなるのでせうか。こちらで今をときめいて居るのは闇屋ですが「大きな商売をして居ります。なにしろ月三千円生活費がかかりますしね」などうそぶいて居ります。己斐駅と広島駅の前には闇市が賑はひ、僕も時に見物に行きます。蜜柑が自由販売でいくらでも買へるので、僕はすつかり蜜柑党になつてしまひました。
生活も押つめられるので、今のうち就職でもして暮らさうかと思つたりそれとも一年間位はこの地を離れたところで、英気を養つておきたいとも思ふのですが、なかなか目鼻がつかず今年も虚しく八幡村で終るかと思ふと佗しいことです。ヴアレリーのスタンダール
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