て話してみたいと思ひます。それでは御元気でゐて下さい。
[#地から3字上げ]十月十二日 原民喜
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永井善次郎様
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●昭和二十年十月三十一日 八幡村より 松戸市 永井善次郎宛
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手紙を出さうと思つてゐたところへ手紙を頂きました。
先日本郷へ行つて来ましたが、上りも下りも大変な列車で窓から乗り窓から降りるのでした。ことに上りは復員やら朝鮮帰りの旅客で目もあてられないやうな暗さでした。本郷でも恰度八百三さんが家族をつれて帰つて来たところでした。こんどは分家で大変お世話になりました。
昨日は城谷の葬式でした。城谷の家から一キロ離れた焼場には白骨がゴロゴロしてゐる叢で、そこに棺もなく家屋の破片をたきつけとして、夕暮、火はしめやかに燃えて行きました。電車が無くなると云ふので早目にひきあげ、土橋へ出る川の堤をとぼとぼ歩いてゐると、あたりは灯一つ見えない焼野で、まだ死臭がかすかに漾つてゐるやうでしたが、ふとその真暗なところから赤ん坊の泣声が洩れて来るのにははつとしました。(よ
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