人の方が珍しいのです。僕は軽いかすり疵を受けただけでしたが右の眼の方に少し神経的の異常が生じ時時妙な光線がチラついて困ります。八幡村へ移る時広島の焼跡を通過しましたが全く奇怪な光景でした。銀灰色の廃墟のところどころに配置されてゐる死体はどうも人間離れのしたポーズで赤くふくれ上つてゐるのです。馬なども胴体がひどく膨脹して倒れてゐました。地獄といつてもこれは近代化された姿でせう。戦慄よりもさきに奇怪さにうたれるばかりでした。大体この空襲は不意打でしたので恐怖する暇もなく僕なども平素の臆病にもかかはらず落着いて行動できました。しかし死ぬるのも助かつたのも紙一重の相違でした。
 さて原子爆弾の話はこれ位にしておきませう。毎日よく雨が降りつづくので困ります。ここは食糧事情が悪くて弱らされて居ります。早く汽車に乗れるやうになり何処で暮しても困らないやうになつてくれないかなあと思ふばかりです。僕もなるべく早く都会の近くに栖みたいし、これからは大いに書きたいと思ひます。君の今後の活動も期待して居ります。雑誌も早く読みたいものです。光太からも久振りに便りが来ましたが彼も大いにやるのでせうね。みんなと逢つ
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