きました。水を求めて狂ひまはる瀕死者の叫びは生地獄でした。翌日東練兵場の治療所へ行きますとここでもひどい姿を見せつけられました。炎天の下に放り出されたまま、何の救助をも受けないで死んで行く人人を見るにつけ、もう戦争もおしまひだなと感じました。「兵隊さん助けてえ」と叫ぶ若い女もありましたが兵隊もひどく負傷してゐました。後できけば二部隊(むかしの十一聯隊)は全滅ださうです。西練兵場は死骸の山だつたさうです。何しろ外に出てゐた人は光線でやられたのです。勤労奉仕に出てゐて一村全滅になつたところもあります。人口の七割は死んだやうですが後から変調を来たして死ぬる人を加へるともつと多いいでせう。柳町の長男も九月二日頃、頭髪が脱け鼻血がとまらず躯に斑点が出て重態でしたが、これはどうやら持ちこたへ、今は快方に向つて居ます。本郷の兄の死因もこれと同じだらうと思ひます。元安橋辺が中心地ですから食糧営団あたりに居た人は負傷はしてゐなくても何かいけない影響を蒙つたのでせう(ガスを吸つたといふ人もあります)。幟町も中心地から二粁以内にあり危険区域ですから安心はできません。現に死んで行く人もありますし、助かつてゐる
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