てゐる杜国と荷兮のうち、杜国の抒情味もさることながら、荷兮の作家的手腕にこの頃また今更のやうに感心してをります。この荷兮といふ男はどうした男なのでせうか。俳句の方はそれほどでもないのに、連句のつけのあざやかさ。
 先日宮島へ行つてみました、ここも水害でやられてをりますが紅葉は綺麗でした。あまりみごとだつたので、その葉を拾つて帰りました。
 広島は己斐駅のあたりが賑やかになり、バラツクの食堂が建つて居ります。物価は東京とあまり違はないのではないかと思へる位です。乞食もだいぶ居るやうです。
 十二月にはお目にかかれるでせう。元気で帰つて来なさい。
[#地から3字上げ]十一月二十四日 原民喜

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永井善次郎様
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●昭和二十年十二月十二日 八幡村より 松戸市 永井善次郎宛
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 お変りありませんか。
 新しい原稿書きかけたのですが纏らないので原子爆弾の方を速達で送つておきました。十七字十二行になつて居て字もきたなく意に満たない個所もありますが、適当に御取扱ひ下さい。
 本郷へはまだおいでになりませんか。
 寒くてやりきれない年末がやつて来ます。
[#地から3字上げ]十二月十二日 原民喜


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  原子爆弾  即興ニスギズ

夏の野に幻の破片きらめけり
短夜を※[#「血+卜」、256−3]れし山河叫び合ふ
炎の樹雷雨の空に舞ひ上る
日の暑さ死臭に満てる百日紅
重傷者来て飲む清水生温く
梯子にゐる屍もあり雲の峰
水をのみ死にゆく少女蝉の声
人の肩に爪立てて死す夏の月
魂呆けて川にかがめり月見草
廃虚すぎて蜻蛉の群を眺めやる
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●昭和二十年十二月二十八日 八幡村より 松戸市 永井善次郎宛
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 拝復 十七日日附の端書拝見。なるほど検閲といふこともあつたのですね。別便で別の原稿送つておきますから読んでみて下さい。この「雑音帳」は原稿が間にあはなかつた時の用意にと思つて清書しておいたものです。
 阿佐ヶ谷の方はあまり焼かれてゐないのですか。自炊生活も容易ではないでせう。僕もこちらでは皆からだんだん厄介者扱にされ、再婚せよとすすめられて居りますが、そんな
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