がら骨を撰《え》り分けた。彼もぼんやり側に屈《かが》んで拾いとっていたが、骨壺《こつつぼ》はすぐに一杯になってしまった。風呂敷に包んだ骨壺を抱えて、彼は植込の径を歩いて行った。すると遽《にわ》かに頭上の葉がざわざわ揺れて、さきほどまで静まっていた空気のなかにどす黒い翳《かげ》りが差すと、陽《ひ》の光が苛立《いらだ》って見えた。それはまた天気の崩れはじめる兆《きざし》だった。こういう気圧や陽の光はいつも病妻の感じやすい皮膚や彼の弱い神経を苦しめていたものだ。(地上には風も光ももとのまま)そう呟くと、急に地上の眺めが彼には追憶のように不思議におもえた。
 持って戻った骨壺は床の間の仏壇の脇《わき》に置かれた。さきほどまで床の間にはまだ明るい光線が流れていたのだが、いつの間にかそのあたりも仄暗《ほのぐら》くなっていた。外では雨が降りしきっていた。湿気の多い、悲しげな空気は縁側から匐《は》い上って畳の上に流れた。時折、風をともなって、雨はザアッと防空壕《ぼうくうごう》の上の木の葉を揺すった。庭は真暗に濡《ぬ》れて号泣しているようなのだ。こうした時刻は、しかし彼には前にもどこかで経験したことがあ
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