暑い陽光が一杯あふれ、風はしきりに吹いて来る。この道路は駅のガードの方へ通じる路で、時間も空間もすべて一つの方向から他の方向へ流されてゐるやうだ。僕はたしかに、はつきりとそれを感じる。だが、僕の現実の視覚のすぐ裏側には、今この道路が忽ちバラバラに粉砕されてしまふ。破片だ、――結局ここも何か惨劇の跡の破片なのだ。……だが、僕の踏んでゐる惨劇の破片の道路と道路の上の空は今、ピンと胸を張つて駅のガードの方へ一つの意欲の如くつづいてゐるではないか。結局、僕の方がここへ迷ひ込んで来た破片なのだ。……だが、もう一度、僕はピンと張つた青空の向ふに眼をやると、この道路のはるか向ふに、何か小さなものがピカリと閃く。と、一ふきの風に散りうせてしまふ奇怪な地球壊滅の全景が見えてくるのだ。
 かうして僕のうちには絶えず窈かに静かな惨劇が繰返されてゐるのだが、僕はいつのまにか駅のあたりまで来てゐる。道路が駅のところへ来ると、急に焼跡の新世界が展がり、人々の流れは戦災者の渦のやうに息苦しくなる。流れてゐる、流れてゐる、人々はまだ的もなく押流されてゐる。と、ガード下のトラツクに袋を抱へたどす黒い男女が警官たちに包囲
前へ 次へ
全27ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
原 民喜 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング