されて無理矢理に一人づつ車上に積込まれて行く。が、たちまち人々の流れはそんな光景を黙殺して露路から露路へ入込んで行く。露路から露路へ、僕も乞食のやうな足どりで歩いてゐる。戦災と飢ゑと宿なしがいたるところに流れてゐる。ぞろぞろと人波は向ふの方からもやつて来る。
しかし、どうかすると、僕は何かはつとする。たしかに、ダイヤモンドのやうなものが、樹木の多い露路の人混みのなかから、たしかに、こちらを射てゐる。あれは一たい何なのだらうか。なにものが僕を射るというのであらうか。それは何か思ひちがひのやうにも思へるのだが、だが、たしかに今も地上にはそんな美しいものが存在してゐるのかもしれない。
僕は甥から部屋を早く立退いてくれと催促されてゐた。近いうちに彼は友人を一人連れて帰るので、どうしてもそれ迄に僕にここを出てくれと云ふのだつた。初めの約束もあつたし、僕はこの部屋に移つた時からも絶えず貸間はさがしてゐた。週に二度出掛けて仕事を貰つて来る出版社の人々にも極力頼んでみた。できるかぎり僕の数少ない知人から知人をめぐつて部屋のことを哀願してはゐた。が結局、金を持つてゐない僕にとつて、殆どそれは絶望的と
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