の重傷者がずらりと並んでいる。彼はそのなかから変りはてた少女を見つける。それは兄の家の女中なのだ。彼はその時から、苦しがる少女に附添って面倒をみる。ふくふくに腫《は》れ上った四肢《しし》を支《ささ》えてやると、少女の躯《からだ》とも思えぬほど無気味だが、水を欲しがる唇《くちびる》は嬰児《えいじ》のように哀れだ。やがて、二晩の野宿の挙句《あげく》、彼は傷《きずつ》いた兄の家族と一緒に寒村の農家に避難する。だが、この少女だけは家に収容しきれず村の収容所に移される。ある日、彼はその女中のために蒲団《ふとん》を持って収容所を訪れる。板の間の筵《むしろ》の上にごろごろしている重傷者のなかに黒く腫れ上った少女の顔がある。その眼が、彼の姿を認めると、眼だけが少女らしくパッと甦《よみがえ》る。
「連れて帰って下さい、連れて帰って、みんなのところへ」
その眼は、眼だけで彼にとり縋《すが》ろうとしていた。
「それはそうしてあげたいのだが……」
彼はかすかに泣くように呟《つぶや》くと、持って来た蒲団をおくと、まるで逃げるようにして立去る。その後、少女は死亡したのだ。だが、あの悲しげな少女の眼つきはいつま
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